射水市から出港し、富山湾沖で行われる海洋散骨を見学。美しい富山の海に込められた思いとは
「地元・富山の海で眠る」は可能か?
新型コロナウイルスの流行以降、自分や家族の「生死」について考える人が増えたと聞きました。
実は、私もそのひとりです。
「自分が死んだら、どんな風に供養されるのだろうか……」と考えたことがあります。
その時、気になったのが「散骨」という方法です。
「散骨」とは、遺骨を粉状に砕いて、故人の思い出の場所などに撒くことです。
「海が好きな私なら、地元・富山の海で眠るのもいいかもしれない」と思いつきました。
そこで、富山県の散骨事情を調べたところ、射水市から出港して富山湾で散骨を行う「散骨富山千の風」代表の前田一郎さんにお話を伺うことができました。
無縁墓の社会問題化がきっかけ
前田さんが散骨に関心をもったきっかけは、「無縁墓の増加」という社会問題です。
近年、核家族化や少子化などの影響で墓の継承が困難となり、墓が放置されて荒れていくケースが全国的に増えています。
前田さんはこうした問題を解決するために遺骨を散骨できる環境を整えようと、2018年4月に「散骨富山千の風」を立ち上げたそうです。
ところで、散骨って、実際のところ、どんなふうに行われているのでしょうか。
「散骨富山千の風」では、1家族で船を貸し切って行う「チャーター散骨」と、スタッフが遺族に代わって散骨する「代行散骨」があるそう。
後日、この「代行散骨」を見学させていただくことになりました。
青い空と海と山を臨む散骨セレモニー
晴天のある日、専用の船に乗り込み、射水市から出港しました。
この日の散骨は6人分。富山県内からの依頼のほか、富山の海が好きだったという理由で県外から申し込まれる方も多いそうです。
事前に預かった遺骨は粉にして水に溶ける紙で包んであります。
散骨が行われるのは2海里(約3.7km)ほど沖。水面は真っ青で、天候に恵まれれば、新湊大橋や立山連峰、能登半島が見えます。
と、船が止まりました。
いよいよ散骨のセレモニーです。まずは、海に花びらをまく「散華」で場を清めます。
次に、遺骨を海に放ちます。※実施報告のため、写真を撮影します。
富山の酒と水で献酒・献水を行います。
黙祷を捧げます。
手順は特定の宗教によるものではなく、富山県に多い仏教のスタイルを参考にしているそうです。
遺族には後日、散骨した日時と場所の緯度経度を記した散骨証明書と写真アルバムが送られます。
散骨した場所の周りを数周旋回して別れを告げ、船は陸へと向かいました。
富山の海に込められた思い
この日、私は青い空と青い海、爽やかな風に触れ、とても清々しい気持ちになりました。散骨を終えたご家族はどのような心境で、船を降りられるのでしょう。
前田さんは、ご家族の方々の明るい表情が印象に残っているそうです。
「墓じまいに罪悪感があったが、気持ちが軽くなりました」
「家族で海水浴を楽しんだ富山の海で、妻を供養できてよかった。富山の海を見るたびに、妻を思い出します」
などの言葉が寄せられているそう。
「すっきりとしたお顔を拝見し、感謝の言葉を直接いただくと、この仕事を始めてよかったと感じます」と前田さん。
富山湾沖の波間には、多くの人の思いと愛が込められているのですね。もしかしたら、将来私もこの海に眠ることがあるかもしれません。
この海に思い入れのある方たちのためにも、この美しく豊かな富山の海をいつまでも守っていきたい……そんなことを考えながら、船を後にしたのでした。
DATA
散骨富山 千の風(株式会社 M’sコーポレーション)
富山市石屋94
0120-352-108
info@sankotsu-toyama.com
http://www.sankotsu-toyama.com